45歳理系出身社会人、気合の挑戦

若林 大樹さん(仮名) 受験歴: 新試験1回
東京大学工学部卒
2020年予備試験合格
                            

1 司法試験の受験を決意した経緯

 私は理系出身の社会人です。40代半ば、仕事で地方への出張が増え、無駄な時間を有効に活用できないか、定年退職後のために資格をとるのはどうかと考え、行政書士試験を受けることにしました。1年間ほど独学で勉強し、2017年に受験し、合格しました。
 受験直後に他の予備校の自己採点制度を利用したところ、全国で5番ぐらいであることがわかりました(300点中252点)。予想以上の好成績で、「これなら司法試験も合格できるんじゃないか」と考えました。単純ですが、これが司法試験の受験を決意した経緯です。

2 学習状況(法律学習)

(1) 基礎講座と論文講座(約1年間)
 行政書士試験にほぼ独学で合格したこともあり、司法試験も独学で勉強できるのではないかと考えました。そこで、ネット受講ができる講座をいくつか探し、コストの安い某予備校を選びました。2017年12月のことです。受講料は40万円強でした。
 その予備校には基礎講座と論文講座があり、それぞれネットで受講しました。これはこの予備校に限らないことですが、多くのネット講座が、さも1年間で普通に合格できるかのように宣伝していて、多くの受講生がそれを信じて購入するのだと思います。しかし実際には、その講座で1年で受かるのはほぼ不可能だと思います。私もこの期間の勉強では、あまり実力がつきませんでした。理由は後述します。

(2) 1回目の短答の勉強(合格)
 2019年1月から短答の勉強を必死に始めました。初学者であったため、大半の知識が初めて見るのに等しく、はじめは問題文が何を言っているかすらほとんどわかりませんでした。たとえば、「管轄」「勾留」「検察官」という言葉の意味もわからないありさまで、必死に短答の勉強だけして5月の試験にぎりぎり間に合った感じでした。
 勉強方法は過去問をするしかないと思います。当時は他の予備校が出している体系別を使いましたが、毎年過去問の数が増えていくので、今では「こんなの全部やれんのかよ」という厚さになっています。それで、結局は無駄の少ない辰已の肢別本がよいと思うようになりました。
 受験指導で、「論文の知識で短答も解ける」というものがありますが、正直甘いと思います。どちらかといえば、「短答を詰めれば論文にも活かせる」のが正解だと思います。短答に合格するには、短答のための勉強を詰めてやらないと難しいと思います。私は長めに勉強期間をとりましたが、合格した以上、よい判断だったのだと思います。
 短答に関しては、必ず模試を受けるべきだと思います。試験時間があまりにも短く、「考えたら負け」という感覚が模試を受けないとわからないからです。短時間で解くテクニックも必要です。
 これは論文の話になりますが、どんなに自分で論文の勉強をしても、本番の論文式試験を1回受けるのと受けないのとでは経験値に天地の差が出ます。なので、「論文の勉強をしていて短答に落ちてしまった」なら失敗です。まずは短答をクリアして、本番で論文の問題を読み、「こんなに難しい問題をスラスラ解けないと合格できないのか!」ということを体で覚えるべきだと思います。そのためにも、まずは短答式試験の合格に最優先で取り組まないといけないと思います。

(3) 1回目の論文の勉強(不合格)
 短答式試験の翌々日、さっそく論文の勉強を始めましたが、書き方が全くわかりません。論文講座の内容が全く身になっていないことを実感し、このままではまずいと考え、本屋で新たに教材を買ったり、某予備校の個別指導を受講したりしました。すると、個別指導の弁護士が、「答練を受けないと合格は無理ですよ」と言いました。安いからという理由でこの予備校を選んだのに、結局個別指導を購入し、さらに予備校の答練を受けないと合格できないと知り、複雑な思いでした。
 当日の試験は本当にボロボロでした。知らない論点が出て焦る、焦って問題を読み間違える、答案構成が不十分で書いている途中で筆が止まる、方針を変える、やっぱり元の方針に戻して大量に消すなど、どうしようもない感じでした。結果はEやFばかりでしたが、総合の順位は受験者の中間ぐらいでした(1200番台)。それで、私のような甘い気持ちで受ける人も半分ぐらいはいるんだ、だったらしっかり準備をして受ければ受かるんじゃないかとも思いました。

(4) 論文受験後
 論文式試験には落ちた確信があったので、2週間ぐらいしてすぐに翌年に向けた勉強を始めました。予備校の答練にも申し込みました。それから、中途半端に勉強しても合格できないと考え、職場に「やめたい」と言いました。結局上司と話し合ってやめないことになりましたが。
 私の実力が最も伸びたのは、間違いなく答練です。本当の意味での論文の勉強は、答練で始まると思います。答練では、自信をもって書いた答案でも厳しく採点されることがよくあります。はじめは反発したりもしましたが、アドバイスを謙虚に受け入れ、何度も書き直したりしているうちに、実力がだいぶ伸びました。

(5) 2回目の短答(合格)
 短答の勉強は2か月ほどしました。約1年ぶりでしたが、驚くぐらい覚えていました。1年目にがっつり勉強すると、翌年以降はかなり楽になると思います。やはり、まず受かることが重要です。

(6) 2回目の論文(合格)
 短答試験の翌日から勉強を始め、ひたすら過去問を書きました。1日に何通も書きました。時間との兼ね合いもありますが、やはり論文は書いて勉強するのがよいと思います。たくさん書くと、内容だけでなく筆圧の加減や書くスピードなどもわかります。それで試験当日の不安もだいぶ減ります。
 それから、模試も受けるべきだと思います。辰已の模試の的中率はかなり高いです。私は辰已の模試で模範答案に選ばれ、かなりの自信になりました。

(7) 口述試験(合格)
 口述の勉強は早めに始めました。要件事実と刑法各論を必死に覚えるので、それが司法試験にもかなり役立ちます。勉強は早めに始めたほうがよいと思います。付け焼刃でなんとか合格できる人もいますが、結局は司法試験で苦しむからです。

(8) 司法試験(合格)
 今回はコロナ対応で司法試験まで3か月しかありませんでした。それで、ひたすら過去問をやりました。一番大事なのは、過去問の完全解で勉強することです。過去問を繰り返して、あとは論証集をやれば、予備合格のレベルがあればほぼ受かると思います。まずは予備を突破することが大事です。

3 論証集

 論文の勉強は、突き詰めれば過去問の演習と論証集の暗記・理解を平行して繰り返すことになると思います。私は当初、論証の暗記に辰已の趣旨規範ハンドブックを使っていました。しかしやがて、他の予備校の論証集を使うようになりました。論証が文章になっているので、読むだけで勉強になるからです。どちらがよいかは人によると思います。私の場合、趣旨規範ハンドブックはポイントだけであり、自分で書き込んだものは本当にあっているか自信がもてなかったので、文章として書かれている他の予備校のものと相性が合いました。司法試験の直前期は、ほぼその論証集だけ何度も見直していました。

4 勉強時間

 社会人の最大の課題は時間の捻出です。私は1日4時間は勉強しようと考えていました。机で4時間が理想ですが、通勤時間が往復2時間あり、これを入れて4時間になることが多かったです。移動時間には主に論証を覚えました。夜は論文を書きました。そして翌朝、少しだけ早く起きて覚えているか見直しました。忘れてたらもう一度夜にやり、覚えてたら次に進みました。

5 勉強方法

 勉強方法は絶えず考えるべきです。受験生は、「論文演習を一通りやったけど、次は何をしたらいいですか」という質問をよくします。私もそうでした。答えは単純で、「できるようになるまでやる」です。次も軽く1周回すのか、1問を突き詰めてやるのかはその人によります。可処分時間や年齢による記憶力の差もあるでしょうし、正解はありません。でも最終的には、全問できるようになって、それを覚えるまでやるしかありません。そのために、試験直前まで勉強方法を考えるのがよいと思います。ちなみに私は試験前日に、「今日は過去問をやろう」とひらめき、それがかなりよかったです。

6 これから受験する人へのアドバイス

 私は48歳ですが、短答式試験では自分ぐらいのおじさんおばさんが試験会場にかなりいました。ところが論文式試験ではその割合がぐっと減り、口述では数人になってしまいました。つまり、社会人の競争相手は社会人ではなく、若い優秀な学生たちだということです。だから「時間がないから…」という言い訳は全く通用しません。「彼らに勝つにはどうしたらいいか」を本気で考えるしかありません。勉強時間は間違いなく学生より少ないので、本気度で勝つしかないと思います。合格したら当然仕事を辞めますし、新入社員からやり直しです。家族の理解がないと勉強できないし、子供の成長の大事な時期に一緒に遊ぶこともできません。年をとると1年が非常に重くなります。そんな状況で、人生をかけて勉強をしているという本気度で勝つしかないと思います。
 司法試験の模試(他校)や本番の試験会場で、ロー生と予備合格者の雰囲気が全く違うのがわかりました。予備合格者は予備の法文をもっているのですぐにそれとわかります。彼らには研ぎ澄まされた雰囲気があります。戦士のような雰囲気です。無駄な会話をする人はほぼいません。話しかけても「俺の戦いを邪魔するな」というような、すごいオーラが漂っていて会話になりません。
 それと比べると、ロー生は友達がたくさんいて、模試でも本試験でも休み時間にワイワイしています。本番の試験後の休み時間に無駄な反省会をする人もたくさんいます。特に私は人生をかけて受験をしている社会人なので、「こんな雰囲気の学生には負けられないな」と思ったりもしました。やはり最も重要なのは気合だと思います。
 それから合格者のアドバイスは、できるだけそのまま聞くべきだと思います。私は合格までにカウンセリング制度で3回ほど合格者のアドバイスをもらいましたが、聞いたときは「そこまでできんのかよ」と思うほど高い基準でした。でも考え直して、そのままやろうと考え、取り組みました。結果的には、それが決め手になりました。やはり合格者の感覚は素直に信じるべきだと思います。「私はそこまでできないので、そういう私がどうしたら合格できるか教えてほしい」という考えを、私を含めて持ちがちですが、そういう甘い考えは早く捨てるべきだと思います。

7 試験のアドバイス

 予備の論文式試験のとき、1日目が終わった後、とても疲れていて家に帰るのがかなり苦痛でした。タクシーで帰りたいぐらいでした。その経験から、司法試験では近くのホテルに5泊しました。朝もギリギリまで勉強できるし、何より試験が終わったらすぐに翌日の勉強を始められます。家族に極度のピリピリ感を伝えなくて済むのも大きいと思います。
 それから、直前の模試は必ず受けたほうがよいと思います。試験を受けるのに1週間、その復習をするのに1週間かかり、かなり時間はとられます。しかし、私は他校の模試を受けましたが、あの試験会場の緊張感を再現してくれるのは本当にすごいと思います。私は模試の最終日、スタッフの方に、「こんな緊張感を再現していただいて、本当に感謝しています」と言いました。そうしたらスタッフの方が、「本番はもっとすごいですよ」と言っていました。
 最後になりましたが、やはり合格までに最も大事なのは気合だと思います。時間は作るしかないし、年齢による記憶力の低下は覚えるまで繰り返すしかありません。どれだけ素晴らしい講師がいて、素晴らしい教材を使っても、ワイワイガヤガヤした雰囲気では合格は難しいと思います。気合が入ってからが、本当の受験勉強になるのだと思います。

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