他大学、他学部、社会人経由の三重苦

S.Yさん 受験歴: 新試験2回
明治大学商学部商学科
北海道大学法科大学院 【既修】2016年入学・2018年修了
【受講歴】2018年スタンダード論文答練、司法試験全国公開模試 他

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 弁護士という職業に漠然とした憧れを持ち始めたのは、小学生の時にテレビで放送されていた法律系の問題をVTRで紹介し、弁護士が一定の判断をするという某テレビ番組がきっかけでした。VTRの題材では、様々なトラブルが発生するものの、どのように解決するのが最も妥当であるのかが小学生の私にはいつも思いつかず、固唾をのんで見守る中、それに一定の答えを提示する弁護士が刺激的でかっこよく見えました。法律は社会を平和に保つ最強の制度なのだな、と子供ながらに思っていました。
 夢は漠然のまま、高校時代は幼少期から習っていた楽器の演奏家になりたく、勉強そっちのけで音楽の鍛錬を重ねる毎日でした。しかし、諸事情により、急遽高校3年生の夏に普通の大学に進学しようと進路の変更をしました。その際に、弁護士になるために法学部の進学も若干考えましたが、一般的に偏差値の高い法学部には勉強が間に合わないと思い、別に興味のあった商学部への受験、進学を決めたのでした。弁護士の夢は、昔からあるにはあったのですが、何年も実現に向けた一歩を踏み出せないという状況でした。
 転機は大学2年生の夏ごろです。高校時代の友人が他大学の法学部に進学し、司法試験を目指していたのですが、私に司法試験の魅力について熱弁してきたのです。新司法試験の運用が始まり、旧試験時代よりも合格者が増えたこと、非法学部でも努力次第によっては法科大学院に進学し試験に合格するチャンスがあることなど、その時に知りました。それまで胸に秘められていた弁護士という職業への夢が突如殻を破って鮮明に姿を現した瞬間でした。司法試験の受験を決意し、某予備校の基礎講座の受講をはじめ、翌年には半年ほどの学習で予備試験の受験にも挑戦しました。憲法と民法しか着手できず、結果は100点にも届かず散々でしたが、今思えば、司法試験の勉強に完成はあり得ません。いつだって未完成なのですから、勉強が進んでいない方も予備試験の受験をお勧めします。試験の難易度と自分の情けなさに絶望し、限界まで抑え込まれたバネのように今後の勉強の原動力に必ずなります。大学時代は毎日平均4,5時間ほどの勉強をしました。具体的には、講義をとりあえず回していくという方法でした。基礎講座は一般的にどの予備校でも数百時間あるので心が折れそうになるとは思いますが、ネットで動画を見ることができるタイプの基礎講座を受講している方は2回目以降の受講は聴き取れる程度の倍速にして何度も何度も繰り返して聴くことをお勧めします。あとはテキストを読みつつ、短答試験の問題も復習もこめて少しずつ解いていきました。まっさらな状態から司法試験の勉強を始める方に注意していただきたいと思うのは、最初から完璧なノートを作らない、ということです。とにかく膨大な量のある試験です。あまり丁寧にやると一年ではとてもじゃありませんが全科目回せないなんてこともあります。一周目は適当に目になじませるくらいでちょうどいいと思います。わからないところは意識的に単元ごと飛ばしてしまいましょう。私は結構しっかりやって、最後の科目にたどり着くころには一年近くたってしまいました。
 他学部ゆえに、授業から法律の知識を得ることもなく、共に目指す友人もそれほどおらず、周りが大学生活を謳歌している学生の中で自分は何と戦っているのだと、不思議な感覚に陥ることもありました。法律を勉強することが当たり前ではない環境の方たちは、本当に大変だと思います。周りの雑音を気にしないことが重要です。しかし、1年少々勉強していく中で、大学3年生の冬になり、自分はこのまま司法試験に突っ込んでも大丈夫なのだろうかと、将来の不安、金銭面の不安など、幾多の不安が突然頭をよぎりました。就職活動のスタートが目の前に迫り、焦る毎日です。そこで、新卒のカードは今年しかないのだから、とりあえず一度就職をして社会人としての経験を得た上で、どうしても司法試験を受けたいと思ったのであれば、お金も貯めてその時に再挑戦しようと撤退を決意したのでした。
 そして金融機関に就職した私は、その年の夏には司法試験のために退職しようと早速心に決めたのでした。法律の引力に抗うことができなかったのです。司法試験から離れて仕事をしていると、一日中他のことを考えずに、法律の勉強をするだけで良いという生活がいかに贅沢なことであるかと実感したのです。以後の勉強生活において、この気持ちは自分の柱になりました。司法試験の勉強から逃げ出したい、勉強したくない、ローの課題や授業が面倒くさいと思う受験生の方に伝えたいのは、実は自分が何不自由なく法律の勉強をしていられるのは究極の贅沢であるということです。もちろん、お仕事をされながら予備試験、司法試験の受験を継続されている方には頭が上がりません。
 お金を貯めるため、決意から1年ほどは働いたのですが、1日の勉強時間が2時間ほどしか取れず、勉強できないことへのいら立ちもありました。しかし、退職してから法科大学院への進学も決まり、思う存分勉強できる環境を手に入れました。
 大学院への受験のためには、時間がなかったこともあり辰已の趣旨規範ハンドブックを重点的に使用しました。大学院の入試レベルでは、司法試験に比べてそれほど密な論述が要求されてはいないと思います。ハンドブックはとにかく典型論点を確認し、最低限の論述のポイントをおさえるのに適している教材であると思います。毎日パラパラと目になじませて、どんな論点があったかなくらいの軽い気持ちでの使用もしやすいです。前述でノートを作らないほうが良い旨書いたのは、このハンドブックの存在も大きく、相当のまとめ能力がなければハンドブック以上のまとめノートを作ることはできないのではないかと思います。時間がかかる部分は予備校の出版物に頼るのはとても大事です。論証の記憶があいまいでも、ハンドブックに書いてあることをそれっぽく思い出して守りの論述したことが功を奏したのか、退職後3か月ほどの専業の勉強で既修コースに合格することができました。

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 大学院入学後は、他大学、他学部、社会人経由と三重苦を背負っていることもあり、苦労することが多かったです。大学院の入学試験自体も下のほうで受かったくらいの実力でしたので、高度な論点を扱う授業では先生が何を言っているのかさっぱりわからなく、周りの学生たちが授業後に法律論の議論をしているのを、わかっているような顔でよく聞いていました。本当は理解していませんでした。法科大学院の過ごし方としては、授業を大事にして課題にもしっかり取り組むタイプの学生と、授業や課題は最低限こなし、自力か予備校に頼って司法試験対策を続ける学生の大きく二通りに分かれると思います。私は前者を理想としつつも、自分の能力が足りてないことから、後者のタイプの学生として過ごしていました。短答対策では、辰已の肢別本をやり込みました。既修1年時には予備試験の短答は不合格でしたが合格点に近い点数が取れて、既修2年時には短答試験に合格することができました。予備試験は司法試験の勉強の練習や目標設定にもなります。最終的には肢別ではなく本試験形式の出題に慣れる必要はあると思いますが、予備試験の短答対策の通常の学習では肢別本で十分という感じでした。論文対策では、既修1年時には辰已のえんしゅう本を回しました。最初から問題を読んで自力で解くというのは自分にはハードルが高く、読み物のように、こういう問題がでたらこういう解答をするのだなあ、程度に読んでいました。論文対策は短答対策に比べて負担も大きく、なかなかやる気が起きないかもしれません。しかし、書かなくても読むだけでもある程度の勉強にはなると思います。
 既修2年時には、秋より辰已のスタ論とスタ短の受講をしました。前述の友人が一足先に司法試験に合格したのですが、彼もまたスタ論文等を受講し、私に薦めたのでした。通信受験でしたが、スタ論は私のレベルでは解答するのが難しく、添削してもらっても意味があるのかと思うレベルの答案しか書くことができないこともありました。全く論点が思い浮かばずに白紙になるのではないかという恐怖もありましたが、添削分の受講料が無駄になってしまう、やむを得ないと、解答冊子を覗いて論点の確認をしてから書き始めるなんてこともありました。とてもずるいですが、結局出せずじまいになるということの方が無駄になるので、スタ論が苦手な人や、答練自体が初めてという人はそれくらいの柔軟性があっても学習効果を得ることができると思います。予備校が想定していない使い方なら申し訳ないです。
 スタ短については、予備試験受験のために早めに対策していたこともあり、比較的解くことができました。良問と感じることが多く、かなり力がついたと思います。しかし、憲法はどうしても予備校の作問した問題とは本番はテイストが違うため、別途基本書、百選の読み込む等の対策は必要と感じました。私は芦部先生の憲法を使用していました。
 1年目は結果として不合格になりました。順位は1,600番台でした。しかし、不幸中の幸いであったのが、全科目とも特に良いのもなかったがひどく悪かったもの(E以下)がなく、それは自信になりました。自分には法学部出身者のような法律の基礎的な力のようなものはそれほどないかもしれないが、論点に対する最低限の答えには触れられてはいるのかなと実感しました。不合格を経験された方は、自分に何が足りないのかをしっかり反省することが特に大事です。科目ごとにばらつきがないか、出題趣旨等を読んで、そもそも要求された論点が論述できていたのか、論述は概ねしたつもりなのに点数が伸びてないのか、などです。不合格の理由は人それぞれです。
 受験2年目もスタ論とスタ短を受講しました。前年に比べれば力もついており、前述の覗き行為もすることなく一定レベルの論述はできるようになったと思います。それもあって、2年目は講義動画も理解することができるようになったと思います。様々な先生から試験に対する心構えやテクニックなどを聴けたことは刺激になりました。

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 2年目は辰已と心中をする覚悟で臨んだので、これ以外にはあまり勉強をしませんでした。自分の勉強スタイルに自信が持てなくなってきたこともあり、全面的に予備校に頼ってしまおうと思ったのもあります。これもまた予備校関係者の方には申し訳ないですが、試験前は非常に不安になりますので、自分が落ちたら予備校の作問が悪かったのだと開き直るくらいの気持ちも必要であると思います。基本的にはスタ論の論点を中心に復習し、スタ短の誤答箇所を回し、えんしゅう本で隙間を埋めるというやり方でした。
 結果として合格いたしましたが、いくつか失敗があったとすれば、前述のもののほかに、予備校と心中する場合には、出題形式が変われば打撃を受ける可能性があるということです。私は短答の刑法が得意で、スタ短では45点を超えることも多かったのですが、今年は出題形式が変わったように思います。当日は足切にひっかかったのではないかという手ごたえで冷や汗が止まらなく、実際には30点代という予想よりも10点以上も低くなってしまいました。やはり基本書を地に足をつけて読むという、基本をおろそかにしないことが大事であると思いました。私はそもそも刑法の基本書を持っていませんでした。基本書を座右に置いておくことをお勧めします。

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 本体験記は、非法学部出身の方や、社会人を経験された方など司法試験においてマイノリティの方に特に参考にしていただければと思います。皆さんへのメッセージとしては、司法試験で一番大事なのは気合だと思います。試験日が近づくにつれて勉強が手につかなくなりますが、自分は法律マシンだと思い込んで乗り切りましょう。本番当日、私は民事第二問目で成人男性のくせに泣きそうになり、この後に苦手な民事訴訟法を控えているのか、と思うと頭が真っ白になりました。しかし、最低限の形にはできるはず、何年やっているのだと一度ペンを置いて落ち着いて、気合で乗り切りました。先ほどの刑法の短答試験中にしてもそうです。この試験以外で冷や汗なんてかいたことがありません。気合は大事です。

辰已法律研究所 受講歴

【2018年対策】
・スタンダード論文答練
・スタンダード短答オープン
・司法試験全国公開模試

【2017年対策】
・スタンダード論文答練
・スタンダード短答オープン
・司法試験全国公開模試

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